2021年10月8日、国は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、事故物件告知義務ガイドライン)を発表しました。
これにより、心理的瑕疵(かし)物件に該当するか否か、事件・事故の有無を告知すべき義務が発生するか否かについての基準が明確化されたことになります。
一般の方々にとっても、自らが所有する不動産の賃貸や売却を宅建業者(=不動産業者)に依頼する際の予備知識となりますので、本記事を通してその概要を学んでいただけたらと思います。
詳細は本記事の最後にあるリンクからも確認できます。
告知義務の有無
今回の事故物件告知義務ガイドラインに事案の例を照らし合わせてみます。
告知義務が発生しないケース
- 老衰や持病による病死などの自然死
- 日常生活の中で生じた不慮の事故(自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥など)
- 隣接住戸や通常使用しない集合住宅の共用部での死亡(自殺や殺人も含む)
告知義務が発生するケース
- 自殺や殺人
- 自然死でも死後の発見までに時間(目安として死後72時間以上)がかかり、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合
- 借主や買主から問われた場合
- 特段の事情があり告知が求められると判断した場合
以上より、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある場合については、告知義務が発生すると考えるべきかと思われます。ただし、死亡した入居者の個人情報に関することや、具体的な死亡時の状況、発見状況などを告げる必要はありません。
「通常使用しない集合住宅の共用部」というのは解釈が分かれそうですが、屋上や受水槽タンク内などがそれに該当するのではないかと考えます。しかし、エレベーターなどについては日常的に使用していると考えられるので、そのような場所で事件・事故があった場合には、告知義務が発生すると思います。
3年を超える期間が経過した場合、告知義務は発生しなくなるのか?
このようなケースでは、どう考えたら良いのでしょうか。
例えば、アパートの一室で自殺があったとします。それから3年間、一度も新たな入居者が見つからなかったとします。
3年を超える期間が経過したある日、物件を見学に来たお客様がいて、その方から入居申込を受けました。
後日、重要事項説明・契約締結も完了しましたが、過去の自殺については一切説明を行いませんでした。
それから数週間ほど経ったある日、入居者が近隣住人から過去の事件について聞かされ、オーナー又は管理会社に対し「最初から聞いていれば、こんな物件は契約しなかった。どうしてくれるつもりだ」と言われてしまいました。
今後このようなトラブルが起きることは、容易に想像ができます。
たとえ10年くらい前の出来事でも、自殺や殺人があったことを覚えているご近所さんは沢山いると思います。
さて、どのように対応すれば良いのか、どのように対応しておくべきだったのか、皆さんは答えられますか?
ベストな対応方法は私自身も模索中ではありますが、やはり「告知書」や「重要事項説明書」を活用すべきと考えます。
それらの書類において「過去3年以内に心理的瑕疵に該当する事件・事故などは発生していない」ということ説明をし、入居者の署名・押印を頂く、これは最低限やっておくべきだと思います。
事件・事故が起きないに越したことはない
何はともあれ、自らが所有している不動産において事件・事故が発生しないことが一番です。
事件・事故に巻き込まれることを想定することは不可能に近いですが、自殺や孤独死などを防止するための対策は出来るのではないでしょうか。
例えば、物件巡回の強化です。巡回する回数を増やしたり、普段はよく見ていなかった箇所を細かくチェックするようにしたりすることで、物件内外の異変に気付けるかもしれません。その異変に対処することによって、事件・事故の芽を摘むことができるかもしれません。
アパートなどを巡回する際は、特に下記のような視点をもってみてください。
- 郵便受けの中が整理されていなくてパンパンになっていないか
- 玄関前やバルコニーなどに入居者の私物やゴミが散乱していないか
- 駐車している車が長期間にわたって動いていなかったり、車内に物が散乱したりしていないか
- 騒音や近所迷惑のクレームが頻発していないか
- 昼も夜も、いつ見に行ってもカーテンや雨戸が閉まっていないか
- 電気メーターが止まっていないか
- 室内から異臭がしてこないか
もし心配な点がいくつかでもあった場合には、インターホンを鳴らしたり、入居者に電話するなどしたりして安否確認を行うようにしましょう。
ガイドラインは今後も見直しがある
今後、基本的には現行のガイドラインに従った運営をしていくことになりそうです。
しかし、一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や不動産取引の実務の蓄積がなく、現時点ではこのガイドラインが言及していないケースもあります。
今後新たな裁判例や取引実務の変化を踏まえるとともに、社会情勢や人々の意識の変化に応じて、適時に見直しを行うこととされていますので、今後も注目していかなければなりません。
いずれにせよ、告知義務の有無に関わらず、事件・事故が起きないことが一番です。
そのためには、やはり事件・事故を防止するための対策を行うことが肝要です。
特にアパートなどの賃貸借契約では、昔から「大家と店子」の関係と言われているように、貸主と借主は親子同然とする概念があります。子の心配をしない親はいません。
賃貸オーナー様は、入居者を大切な我が子だと思って、日頃から目をかけ、見守ってあげる姿勢も忘れてはならないと思います。